【税理士が解説】農地を相続したら税金はどうなる?「農地の納税猶予制度」の要件と注意点一覧
目次
この記事でわかること
- ・農地を相続した際、一定の要件を満たせば相続税の納税が猶予・免除される仕組みがわかる
- ・「農地の納税猶予制度」を適用するための農業経営や対象農地の具体的要件が整理できる
- ・制度適用後に営農をやめた場合のリスクや、申告時の注意点・手続の流れを把握できる
ご家族が亡くなり、田んぼや畑などの農地を相続することになった場合、土地の評価額によっては多額の相続税がかかることがあります。「農業を続けていきたいけれど、税金が高くて払えない」「農地を売却して税金に充てるべきか」と悩まれる方も少なくありません。
このような負担を軽減し、農地の継続的な利用を守るために設けられているのが「農地の納税猶予制度」です。この制度を活用すると、農地にかかる相続税の大部分(または全額)の納税が猶予され、最終的には免除される可能性があります。
ただし、制度を適用するには厳しい要件があり、適用後も営農を継続しなければ猶予が取り消されて利子税とともに納税しなければならないという注意点もあります。
この記事では、農地の納税猶予制度の仕組みから適用要件、メリット・デメリット、注意点までを一覧でわかりやすく解説します。
農地の納税猶予制度とは?相続税の負担を大幅に減らせる仕組み
農地は、宅地などに比べて面積が広く評価額が高くなりがちです。一方で、農業所得だけで高額な相続税を一括納付するのは容易ではありません。
そこで、農業を継承する相続人が一定の要件のもとで営農を続ける場合、農地に係る相続税額のうち「農業投資価格(農地として取引される場合の価格)」を超える部分の納税が猶予される制度が用意されています。
納税猶予の基本的なイメージ
例えば、通常の評価(宅地化農地評価など)で計算した農地の評価額が1億円、農業投資価格による評価額が1,000万円だった場合、差額の900万円相当にかかる相続税の支払いが猶予されます。
さらに、以下のいずれかの事由に該当した場合には、猶予されていた相続税が正式に免除されます。
- ・相続人(特例適用者)が死亡した場合
- ・後継者へ農地を括り(一括)贈与し、後継者が新たに贈与税の納税猶予の適用を受けた場合
- ・(三大都市圏の特定市域外の農地などの場合)申告期限から20年間営農を継続した場合
農地の納税猶予を受けるための3つの要件
納税猶予制度を利用するには、「被相続人(亡くなった方)」「相続人(取得者)」「対象となる農地」のそれぞれについて要件を満たす必要があります。
| 対象 | 主な適用要件 |
| 被相続人(亡くなった方) | ・死亡の日まで農業を営んでいたこと ・生前に農地の一括贈与を行っていたこと ・死亡の日まで営農や合理的理由による貸付けを行っていたこと |
| 相続人(取得者) | ・相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も継続すること ・生前贈与により農地を取得し、贈与税の納税猶予を受けていたこと ・農地引き渡し後に身体障害等の理由で自ら営農できない場合、特定貸付け等を行うこと |
| 対象となる農地 | ・被相続人が農業の用に供していた農地であること ・相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること ・市街化区域内の農地の場合、生産緑地地区内にあること(一部指定外を除く) |
※市街化区域内の農地については、生産緑地地区の指定を受けていないと対象外になるケースが多いため、自治体の都市計画情報の事前確認が不可欠です。
制度を利用するメリットと注意すべきデメリット
農地の納税猶予制度は強力な節税策となる反面、将来の土地利用を縛る制約も伴います。
メリット
- 手元資金がなくても農地を守れる: 現金で高額な相続税を納付できない場合でも、農業を続けることで納税を先送りにできます。
- 次世代への承継がスムーズ: 後継者へさらに生前贈与等で繋ぐことで、代々の農地を保全しやすくなります。
デメリット・リスク
- 打ち切り(猶予取消)時の負担が大きい: 営農をやめたり、農地を売却・転用・貸付(一部の特例貸付を除く)したりすると猶予が取り消されます。
- 利子税が発生する: 猶予が取り消された場合、猶予されていた相続税の本税に加えて、相続開始時にさかのぼって年率で計算される利子税を併せて納付しなければなりません。
判明・発生しやすい「猶予取り消し」の具体例
次のようなケースに該当すると、納税猶予の全部または一部が打ち切りとなり、期限内に納付が必要となります。
- 農地を売却・賃貸・転用(住宅や駐車場などにする)した場合
- 農業経営をやめて休耕地のまま放置した場合
- 生産緑地の買取り申出を行った場合
- 継続届出書の提出を怠った場合
なお、収用交換による売却や、特定農地貸付け(市民農園など)、一定の要件を満たす農地バンクへの貸付け(特定貸付け)など、一部例外として猶予が継続される制度も整備されています。
申請手続の流れと提出時のポイント
納税猶予を適用するためには、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに必要書類を揃えて税務署へ申告する必要があります。
手続の主なステップ
- 農業委員会での適格確認: 農業委員会から「農業経営移転等による納税猶予の適用を受けるに関する適格証明書」の交付を受けます。
- 担保の設定: 猶予される相続税額および将来発生する利子税に見合う担保(対象となる農地自体を担保とすることが一般的です)を提供します。
- 相続税申告書の提出: 申告書第8表(農地等についての相続税の納税猶予の特例の適用要件等に関する明細書)などの書類を添付し、期限内に申告します。
- 定期的な継続届出(3年ごと): 申告後も、猶予期間中は3年ごとに「継続届出書」を税務署へ提出し続ける必要があります。
農地の相続税と納税猶予に関するよくある質問
Q. 農地の納税猶予を受けている途中で、一部だけ売却することはできますか?
A. 譲渡した部分について納税猶予が取り消され、その部分に対応する相続税と利子税を納める必要があります。なお、譲渡面積が全体の20%を超える場合などは、すべての農地について猶予が取り消されることがあるため注意が必要です。
Q. 農業を継ぐ予定がない場合は、どうすればよいですか?
A. 相続人が営農しない場合、納税猶予制度は利用できません。その場合は、通常の路線価や倍率方式で算出された評価額をもとに相続税を計算し、納付します。農地の活用・売却や、小規模宅地等の特例など他制度の併用も含めて検討しましょう。
Q. 市街化区域の田んぼでも納税猶予は使えますか?
A. 市街化区域内の農地で納税猶予を適用するには、原則としてその農地が「生産緑地地区」に指定されている必要があります。宅地化農地として扱われる通常の市街化農地は対象外となるケースが多いため確認が必要です。
まとめ|農地の相続は早期の状況把握と計画が重要です
農地の相続税対策として「納税猶予制度」は非常に有効な手段ですが、適用のハードルや将来の営農義務といった注意点が存在します。
農地を維持して営農を続けるのか、あるいは活用・売却を選ぶのかによって最適な税務手続は大きく異なります。相続が発生した際は、対象農地の区画や都市計画上の区分(生産緑地かどうか)を早めに確認し、手続漏れや誤判断を防ぐために税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
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