相続と認知症対策:遺言・生命保険、家族信託の活用
相続対策の重要性と実態
相続は、誰にでも起こりうる出来事ですが、適切な対策を取らなければ、家族間の争い(争族)や資産凍結といった深刻な問題を引き起こす可能性があります。
新潟県における平成28年(2016年)の相続税申告数は1,602人に上り、これは死亡者数に対する割合で5.6%に相当します。平成26年(2014年)の2.6%から見て、相続税の申告対象となる方が大幅に増えていることが分かります。
また、税務調査の面でも厳しい実態があります。平成28年には226件の実地調査が行われ、そのうち申告漏れ件数は182件。調査件数に対する申告漏れの割合は80.5%**に達しています。
相続税の基本計算式
相続税は、純資産額から基礎控除額を引いた「課税遺産総額」に対して課税されます。
基礎控除額 = 3,000万円 +(法定相続人の数 × 600万円)
※この課税遺産総額がプラスにならなければ、相続税はかかりません。
争族を避けるための有効な手段:遺言と生命保険の活用
遺産の分け方を円満に進めるためには、「遺言書」が最も強力な手段となります。遺言があれば、法定相続のルールに優先して、遺言者の意思通りに財産を相続させることができます。
1. 遺言による自由な指定
- 法定相続人以外への譲渡: 嫁、孫、世話になった友人などにも財産を分けることが可能です。
- 配分の指定: 「全財産を妻に」など、法定相続分とは異なる配分や、自宅・株式など具体的な割付けを指示できます。
2. 遺言の種類とメリット・デメリット
| 種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
| 自筆証書遺言 | 自分で書く | コスト不要、手軽 | 紛失・無効のリスク、検認が必要 |
| 公正証書遺言 | 公証役場で作成 | 確実性が高い、検認不要 | 手数料が必要、証人2名が必要 |
3. 生命保険の活用
生命保険は、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税限度額があるため、節税効果が期待できます。また、受取人が直接請求できるため、遺言と同様に「特定の誰かに現金を残す」効果があります。
認知症による「資産凍結」の恐怖
平均寿命の延伸に伴い、認知症リスクは無視できない課題です。2060年には女性の平均寿命が90.93歳に達すると見込まれており、65歳以上の高齢者のうち、約4人に1人が認知症またはMCI(軽度認知障害)の状態にあると推計されています。
本人が判断能力を失うと、以下のような「資産の凍結」が発生します。
- 不動産: 売却や管理ができなくなり、「空き家」になるリスク。
- 預貯金: 引き出しができなくなり、「使えないお金」に。
- 対策の停止: アパート建設や生前贈与など、相続税対策が一切できなくなります。
成年後見制度の限界と家族信託の登場
判断能力を失った人を守る「成年後見制度」には、財産管理の面でいくつかの課題があります。
- 柔軟性の欠如: 財産は家庭裁判所の監督下に置かれ、最低限の生活費以外の支出や資産運用が困難になります。
- コスト: 専門家が選任された場合、年間30万円〜80万円程度の報酬が一生涯続くことがあります。
- 相続対策の中断: 節税のための不動産建築や生前贈与は認められません。
そこで、新しい選択肢として注目されているのが「家族信託(民事信託)」です。
家族信託の仕組み
家族信託とは、元気なうちに信頼できる家族(受託者)に、財産の管理・処分権限を託す契約です。
- 管理権と受益権の分離: 「管理する権利」を家族に渡し、「利益を得る権利(住む、収益を得る)」は本人が持ち続けます。
- 名義の変更: 受託者が名義人となりますが、本当の所有者(受益者)は本人のままです。
家族信託の大きな利点
- 資産凍結の回避: 親が認知症になっても、子がそのまま不動産の売却や管理を続けられます。
- 次々世代の指定: 遺言では不可能な「配偶者の次に、甥に継がせる」といった、二代先・三代先の承継先も指定可能です。
- 税制面: 当初の契約時点では贈与税は発生しません。不動産の登録免許税も通常の移転より安く抑えられます。
まとめ
家族信託は、家族間の信頼関係があってこそ成り立つ制度です。資産の大小に関わらず、**「健康で判断能力があるうち」**に話し合いを始めることが、家族の未来を守る第一歩となります。
(注:本コラムは、相続・家族信託のセミナー資料を基に構成したものです。)
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